電撃文庫編集部『狼と香辛料ノ全テ』(アスキーメディアワークス)

 陰謀対決とか陰険合戦とか大好きなくせに記憶力がおちゃっぴいな読者としては、こういうまとめ本はありがたい。応募〜受賞した作品の改稿の過程なんかも、門外漢的にもなかなか興味深い気が。なるほど、これは作者と編集者の二人三脚という表現がしっくりくるわ。

狼と香辛料ノ全テ

狼と香辛料ノ全テ

ラノベのあらすじがツールで作られてないか見抜くたった1つの方法

 はてブで話題になってた↑の増田のエントリ。コメントも書いたけどとても100字じゃ納まらんので日記。
 新人ではなく、過去2回でデビュー済み「新人だからご祝儀買いした…金返せ」という点については、正直、ちょっといただけないとは思う。少なくともテクニカルな面については、既存作家の新作の評価基準よりは新人賞のほうが甘かろうし、一方で受賞の賞金とほぼ確実な出版というメリットはデカい。おまけにご祝儀買いの分の売り上げが上乗せ。デビュー済みはダメという規約はなかったにせよ、アンフェアとの誹りも無理はない気はする。
 が、「ツールで作った話なんて…金返せ」ってのはどうなんかね。ツールで自動生成されようが、突然の天啓をうけて10秒で作り上げようが、胃潰瘍になるまで悩んで悩んで悩み抜いて3年がかりで練り上げようが、読む側と出版する側にとっては、できばえが全てだろうに。むしろツールで量産できるんなら、同水準の遅筆作家よりはよっぽどありがたいんじゃなかろうかしら。
 だいたいツールの使用への反感ってのがそもそもよく分からん。プログラマ的価値観の持ち主としては、自動化・システム化・手順書化が可能なものであれば、そうせずに手作業とひらめきに頼る、なんてのはむしろ罪悪にしか思えん。怠惰は美徳なのだ。アマチュアの趣味ならともかくプロの仕事なら、効率を常に考慮すべきだろう。
 実際、小説自動生成ソフト「七度文庫」なんてものも存在するそうだし、ハーレクインが自動生成だという噂も、少なくとも多くの人がそれはありそうだと思うくらいには人口に膾炙しているようだ。完全な自動生成じゃなく補助ということであれば、桜坂洋さんのケースなんかが有名だろう。
 ま、そもそも補助ツールまで話を広げれば、右往左往シート(『スペースオペラの書き方』)をはじめいろんな人がいろんなものを使ってるだろうし、そもそも小説作法講座なんかで学んだテクニックを使うことすら否定されかねないんじゃなかろうか。*1
 だいたい、「あらすじのオリジナリティ」なんてもの自体が存在するのかどうか、という問題もあるな。「物語のパターンは既に神話・聖典で出尽くしている」ってのは誰の言だっけ。物語の類型 - Wikipediaなんて見てるだけでワクワクしてくる。
 むしろ俺なんかの好みだと、ありがちで王道なパターンのあらすじに、どんな舞台設定・人物造形・納得力あるウソ理論・不思議ガジェット・名状し難きクリーチャーを載せてくるか、それらがどんな文体で描写され、その上でどんな会話が飛び交うのかのほうが、よっぽど楽しみだよな。それらに比べりゃ、あらすじなんて重要度はたかが知れてる。
 そういえば、「若き青少年が、孤立無援またはそれに近い状況で、単機の能力は高いが数はそれほどでもない機動兵器を搭載した船に乗り合わせ、逃亡や攻撃回避などの受動的なまたは状況まかせの遍歴で、多くの人々と出会い別れいくつもの事件に巡り会い、やがて世界全体に関わる大きな動きの中心となっていく」という同じあらすじで、ガンダムイデオンザブングルダンバインエルガイムを製作した御大がいましたな。*2 「あらすじがパターンどおりなんて、ムキー!!!」という人に、御大の評価をうかがってみたいものだ。

*1:ワナビー搾取産業の是非はさておいておく。

*2:ついでにブルーノアバイファムマクロスもこれにあてはまるか。