森田季節『不動カリンは一切動ぜず』(ハヤカワ文庫JA)

 正直、設定オタ系SFファンとしては、かなり違和感を感じる舞台設定ではある。150年後の日本、ノードと【媒介点】により思念を伝達することが当たり前で、性行為がタブーで完璧な人工生殖が可能で、【親体出産法】だの【強制善人法】が施行された社会。なんでそれでこんなに街の風景やら庶民のメンタリティが現代日本とまったく同じなのよ。*1 
 が、それをさておいて、これだけのお膳立てと舞台設定をシンプルなラブストーリーのために一冊で使い捨てる作者の心意気が豪快に素敵である。近未来監視社会のポリティカルサスペンスと、なんだかニューウェーブっぽい思想のぶつけ合いと、仏様が解説役を務めるバトルと、電波とダジャレの神の託宣と、そしてなんだか謎のオカルトモチーフ。はっきりいって舞台立てはなにが何だかよくわからないんだけど、ハッピーエンド一直線のラブストーリーだってことだけはよくわかる。で、こういう勢いとパワーだけで他をすっ飛ばすお話しってのは、なぜか波長が合うんだよなぁ。まるで違うジャンルと内容だけど、なぜか俺の中では本書は、友野詳「暗闇に一直線」(『秘神界―現代編』)と同列。
 しかし客観的には、これ、ちょっと誉めるのが難しい本だよなぁ。大量の設定やら伏線やら裏で動いてるなにかを思いっきり詰め込んでおいて、それらはそれぞれ相互に矛盾してる感アリアリで、いわゆるセカイ系の裏をかいた感じ。いろいろややこしい複雑な世界の事情に一瞬触れたけど、世界の矛盾やら謎やら陰謀やら裏で起きてる事件? そんなもん知らないよ、そんなもん関係無しに主人公の心の力で強引に、なんも回収せずハッピーエンドに辿り着きました、みたいな。

不動カリンは一切動ぜず (ハヤカワ文庫JA)

不動カリンは一切動ぜず (ハヤカワ文庫JA)

*1:いくら地の文での比喩とはいえ、150年後の日本を舞台にファミコンというゲーム機にゲームボーイのゲームソフトを無理矢理入れるようなものはねえだろ。