水無神知宏『此よりは荒野 Gunnning for Nosferatus 1』(ガガガ文庫)

「は〜い、まいどありがとーございまーす。迅速正確安心便利のゴールドマン&トーマス電信会社なら五マイル以内は合図ひとつ! 可愛い小妖精(スプライト)が瞬間移動でうかがいまぁーす! 本日のご用は……なんだアランじゃん」

 格好良い台詞満載だしお気に入りもいっぱいあるんだけど、うっかりしたところを引用するとネタバレになりかねないので、別方向に気に入った台詞。亜人やら妖精やら魔族の闊歩する西部開拓時代のアメリカっぽい世界の平和な側を象徴する感じ。
 魔族に対抗しうる人間側の力が、鍛錬したり徒党を組むことに一定の意味はあっても、最終的には銀の刃と弾丸のみ、という非力さと、それと表裏一体の数の暴力っぽさが良い。なんというか、この世界の身も蓋も無さを象徴してる気がしてならない。
 ところで(妖精)銀の弾丸って、使い切りなのかしら。銀は魔族の闇の生命力と打ち消しあい対消滅する、ってな感じだと、銀の切れ目が人間の黄昏、したがってこの世界では銀鉱脈こそが富の源、かもしれん。それとも倒した相手からほじくり出したり炎で焼いたor陽光に晒した灰から拾い上げた銀は再利用できる、ただし妖精銀は妖精にしか鋳直せない、という感じかな。使ったナイフがすり減ったりする描写がないところを見ると後者かしら。
 それにしても、こんな才能が一作だけ書いて干支一回りもの間隠居状態とは、なんと勿体ない。てか富士見書房の大馬鹿もの。*1 そして田中ロミオ氏とガガガ文庫に感謝を。

Gunning for Nosferatus〈1〉此よりは荒野 (ガガガ文庫)

Gunning for Nosferatus〈1〉此よりは荒野 (ガガガ文庫)

*1:もっとも、書かせなかったのか書けなかったのかまでは知らんけど。