上遠野浩平『残酷号事件 the cruel tale of ZANKOKU-GO』(講談社ノベルス)

 これは、上遠野さん流の仮面ライダーか。後ろ暗い意図のあるっぽい組織によって強大な力を与えられ、弱き者を守って闘う謎の男。しかし上遠野さんだと、人で無くなってしまったことの悲しみとかがすっぽり抜けるんだな。考えてみればMPLSも合成人間も魔女も、特に途中で普通の人間から変化した人たちは、拍子抜けするくらいあっさりと境遇自体は受け入れてるよなぁ。自身がなにものでどういう立ち位置にあるべきかをうじうじ悩むのって、かつてのカミールぐらいな気が。
 しかしさすがにこれだけ間を開けられると、禁涙境で何があってこの人たちが何をしたか、完全に脳みそから蒸発しとるな。海賊島の人たちも言及されてるがこれもすっからかん。で再読しようとして本棚をひっくり返し、『殺竜事件』を手にとって、改めてあの竜のイラストに衝撃を受け直す。本書のイラストも決して悪いとは思わないんだけど、やっぱあのインパクトには負ける。人間とか道具とかはどうでもいいが、人外だけは金子さんの絵で見たかったなぁ。

残酷号事件 the cruel tale of ZANKOKU-GO (講談社ノベルス)

残酷号事件 the cruel tale of ZANKOKU-GO (講談社ノベルス)