山本弘『滅亡の星、来たる―ダイノコンチネント』(徳間デュアル文庫)

 これ、書くのが楽しかったろうなぁ。白亜紀にある材料と石器レベルの技術で紙とインクを作る方法だの、マイルとキロと21世紀の1日と白亜紀の1日という単位を混在させながらの小惑星の軌道計算だのといった設定もそうだし、いつものように作者の分身を心に宿したキャラがDQNを痛い目にあわせ、エロ要素あり、絵柄はまんま「女ターザン」*1であのシーンは『ゲートデーモンの仮面』。なんというか、ここまで「山本色」全開で、他の作者も参加するシェアードワールドとしてやっていけるのか、心配になるくらいだわ。*2
 ところで、あとがきでこの手の異世界ものによくある「なぜかは分からないけどそうなっているんだ」じゃなく、SF的にきちんと筋を通しますので、ご期待くださいと言われたからにはぜひ期待したいんだが、何故に6500万年の時を越えて*3同じ惑星上に移動し得たのであろうか。人為的に調整された機械装置によるものではなく天然自然の現象なタイムスリップでそのあたりをきちんと辻褄を合わせてる作品ってあんまり記憶にないので、とっても期待。こじつけでも奇想天外で素っ頓狂な代物でもいいから、*4 なんらかの理由付けが欲しいなぁ。もちろんそのメカニズムを物語に絡めるかそれとも裏設定とかのレベルに留めるかってのは作劇上の必要性によるだろうし、そもそも空間的にも何千何万光年も離れているとしたうえで地の文の三人称超越者視点では一度も「タイムスリップである」旨を断言してないあたりを見ると、分かってやってそうな気もしないではないんだが。

*1:21世紀レベルの宇宙観とキリスト教系列の宗教概念が普通な世界で、魔除けのペイントさせるか、ふつー。

*2:もっとも、不時着〜本作の時点の500年間を使うことにすれば、なんとでもできそうではあるけど。

*3:銀河中心周りの公転と銀河系の固有運動による距離の壁をも越えたことになるわけだ。太陽の(そしてそれを含む銀河系の)ハッブルフローに対する特異速度 570±60 km/sに6500万年をかけると12万光年強。

*4:実は時間移動ではなく位置は現在の地球とぴったり同じだけど星空の配置は異なり生物学的・地質学的進化が6500万年ずれた並行世界への移動だった、とか。