嫌なニュースがきた

 ウイルスの8本の遺伝子のうち、PB2という遺伝子はウイルス増殖に関与するタンパク質を作る。今回のウイルスでは、これまで世界各地で採取された新型ウイルスとは異なり、PB2タンパク質の627番目のアミノ酸が「グルタミン酸」ではなく「リジン」に置き換わっていた
 鳥のウイルスでここがリジンになると哺乳類で増殖しやすくなるとされ、毎年人で流行するA型インフルエンザウイルスでも、この部分はリジンになっている。
 ウイルスに詳しい河岡義裕・東大医科学研究所教授によると、インフルエンザウイルスのPB2という遺伝子が作るたんぱく質は、感染した相手の体内での増殖能力を左右する。たんぱく質アミノ酸がつながってできている。新型インフルのPB2では、627番目のアミノ酸グルタミン酸だが、上海のウイルスはヒト型のウイルスと同じリジンになっていた。
 グルタミン酸のウイルスは37度前後でしか効率よく増えないが、リジンは33〜37度で効率よく増える。人の鼻の中やのどなど「上気道」は約33度、気管支や肺など「下気道」は約37度という条件に合うという。
 遺伝子変異が見つかったのは、5月31日に中国・上海で22歳の女性から分離したウイルス。河岡教授らは公表された遺伝子情報を分析。ウイルスの増殖能力にかかわる「PB2」という遺伝子の配列の一部が、これまで見つかったウイルスに比べ人の体内で増殖しやすいタイプに変わっていたという。
 豚インフルエンザから変異した新型インフルエンザのウイルスは鳥、人、豚の4種類のウイルスが複合したことが分かっている。PB2は鳥インフルエンザのウイルスから引き継がれ、人の体内では増えにくいとみられていた。
東京大医科学研究所の河岡義裕教授(ウイルス学)によると、この新型ウイルスは上海市の女性患者(22)から先月31日に採取された。世界中のウイルスの遺伝情報を集めたデータベースに登録されていたものを、河岡教授が分析した。新型ウイルスは、豚と鳥、人のウイルスが混ざり合ってできている。増殖にかかわる遺伝子は鳥由来で、鳥の体温(42度)で最も効率的に増える。
 ところが、上海で見つかったウイルスは、この遺伝子が1文字分だけ変異して、人の体温(36度)で、効率的に増殖できるように変化していた。
 マウスの実験では、ウイルスのこの部分を変化させると、増殖力が爆発的に増え、病原性が高まることが分かっている。