友野詳, 田辺あひる, 番棚葵『夜の殺戮者―ダイノコンチネント』(徳間デュアル文庫)

 プロローグでいきなり怪しげな声が……まさかいきなり、現代のホモ・サピエンスと意思疎通が容易に可能な程度のメンタリティの持ち主が黒幕とかいう安直な方向へ向かうんじゃなかろうな。人間とディノサウロイドではそのメンタリティの違い故、例えタッチャー=接触テレパスの能力を持ってしてもそう簡単に意思疎通できるわけではない、なんてことをきちんと描写してる作品なのに、いきなり「吟遊詩人モードで滔々と真相を語るGM(ゲームマスター)」みたいな存在が出てくるとは。こうなると、「百鬼夜翔」で悪名を轟かせたワールドクラッシャー・友野詳だけになぁ、不安が募りまくり。本作自体はまぁそれほどではなかったけど、それでもなんかIVDSネタで「ワールド内ワールド」を作って好き勝手暴れるんじゃないかという予感がしないではない。
 2編目の田辺あひる氏、小説か、これ? プロットとかシナリオとか言わんか。心理描写も情景描写も何一つ響いてくるものが無い。それともこれこそ本作のシェアードワールド設定を全面的に活用した斬新で画期的な手法なんだろうか? 主人公が接触テレパスであることに全面的に依存した心理・人物描写って……
 3編目、番棚葵氏。まとも、というか普通。1話目の不穏さと2話目の出来の悪さのあとではまさにオアシス。そう、とりあえずはこの程度に設定なり裏の真相なりを小出しにしつつ、単発としても大きな話の一部としてもどっちとでも転べるような、「単体としてもまともな話」を積み重ねて、シェアードワールドへ読者を馴染ませようとするもんじゃないか、普通。

夜の殺戮者―ダイノコンチネント シェアード・ワールド・ノベルズ (徳間デュアル文庫)

夜の殺戮者―ダイノコンチネント シェアード・ワールド・ノベルズ (徳間デュアル文庫)