小川一水『煙突の上にハイヒール』(光文社)
妙な違和感。なまじの架空戦記どころじゃない現実世界からの遠さを感じる。一般誌での連載ということで意図的にハードSF的傾向を押さえたのかしら。圧倒的に自由で個人主義で自己責任な、作者の夢想する「こうあって欲しい異次元日本」っぽい感じ。同じように現実の延長線上の近未来であっても、技術力と資金力で政府の手の届かないところへ出ていったり、*1 軌道エレベーターの麓の半ば人工の社会が舞台だったり*2すれば気にならなかったんだが。
煙突の上にハイヒール
新発明でようやく量産普及開始という段階の個人向け飛行機械、諸外国では既に普及済みってわけでもない様子。だとすると安全性や環境影響については理論的裏付けや製造側の揃えたデータはあっても実績は乏しいはず。その段階で既に免許制度が確立し教習制度すら存在し公共空間での飛行が許可されてるって、よりによってこの国であり得る? 現実には地上の公道でセグウェイを走らせることすらかなわんのに。
イブのオープン・カフェ
これ自体は凡作。ただし次のお話を読んだあとでは、フレーム問題を解決できて安全措置を組み込めてるAIのありがたさをしみじみ感じてしまう。
おれたちのピュグマリオン
人間からの無理難題を「できません」と言ってかわすメイドロボット……稀代の口車大王にして機械知性クラッシャーたるカーク船長と対決させたい。しかし、現実世界で行われている「匿名性を保ったままネットでやりとりする」為の努力と美奈や白嶺や明野を組み合わせると、面白いことになるだろうな。