木村航『愛とカルシウム』(双葉社)

 思わず失笑が漏れたら、その声に反応して雀がつやっつやの目でこっち見やがった。
 くっそー、反則だ。この目の魔力でアホな親鳥どもを操り、夜明け前からエサハンターとして飛び回らせるわけだ。でもってアホな鳥類に輪をかけてアホな人類も、この目には逆らえない、と。

 主人公は長期療養施設に入所中で、それどころではない事情を抱えつつも巣から落ちた雀の雛を世話する羽目になる。で、まさにその「それどころではない事情」に思いをはせた直後のシーン。いやまったく反則ですわ。ぶっちゃけ、この作者の作る話や書く文章、やや俺の好みからすると粘っこすぎるんだけど、ときどきこういう光り物が埋もれてて、つい新作が出ると読んじゃうんだよなぁ。

愛とカルシウム

愛とカルシウム