林亮介『迷宮街クロニクル 4 青空のもと 道は別れ』(GA文庫)

 サブタイトルを見た途端「ああ、全滅じゃないんだ。生き別れにせよ死に別れにせよ、少なくとも一方は生きてるってことだよな」と安堵するほどシビアなお話しもついに最終巻。トーナメント部分がごっそり飛ばされてなおこの分厚さ、にもかかわらずどんどん読めてしまう、というか目を放させてくれない展開、そして、迷宮のさらに下の層には何があるのかとか、事業団とか商社とかその他各組織の上の方の思惑とその衝突とか、そもそもこの迷宮がなんでこんなとこに出てきたのか、とか、まだなんぼでもネタを拾って膨らませて延ばせそうなのをここでバッサリ終わらせる潔さ。*1 どれを取っても見事だわ。
 あと、運良く某所で拾った某PDFと、また別の某所の「迷宮街紳士録」。これも素敵だわ。トーナメントにしてもインタビューにしても、各登場人物が作者の頭の中にきちんと生きてるんやねぇ。
 脇役では桐原さんの株の下がり方が無惨だ。戦術眼に優れ探索者部隊のリーダーです、クラウゼウィッツ読みました、てな人間にいきなり防衛ラインの指揮官をやらせたって、そりゃ、指揮下の人間に「死ね」と命ずる訓練なんて受けてないわな。せっかくそこに自衛隊の人間もいるのに、こうなってしまうあたりが、なんとも現代日本。軍人の使い方が下手だ。探索者だの人類の剣だのといった個人〜少人数でのチームプレイに特化した人間では、こっちから進攻して切り取ってすぐ戻ってくる海賊戦法はとれても、橋頭堡の防衛には使えんのだろうな。
 ところでオビワン・ケノービのモデルはなんだろう。地下2階に現れる後衛術者タイプのボスキャラ……得物屋24時間 BOLTAC'S TRADING POSTでいろいろ見てみたが、該当するのはLVL 1 MAGEかLVL 1 PRIEST、地下4階まで範囲を広げてもせいぜいPRIESTESSか。それとも呪文封じの床の具象化かな。で、その状況下でも後衛にまで飛んでくるエーテルがブレスか。

迷宮街クロニクル4 青空のもと 道は別れ (GA文庫)

迷宮街クロニクル4 青空のもと 道は別れ (GA文庫)

*1:タイトルがクロニクル=年代記なんだからここからあとの話が続いてもいいじゃないか、とちょっと思ったけど、考えてみれば原題は『和風Wizardry純情派』なのね。