山本弘『アリスへの決別』(ハヤカワ文庫JA)

 表題作と「リトルガールふたたび」*1については……ま、なんというか、あれだ。あえて極端な状況設定を舞台にプロパガンダにすらみえる自分の主義主張全開トークを繰り広げるのもまた、『1984年』や『宇宙の戦士』から後期J・P・ホーガンを経て連綿と続くSFの伝統の一部ではあるのだな、うん。しかし、SFなんだから、「もうちょっと捻ろうよ」感は否めない。例えば同じ「特定ジャンルの表現物の単純所持規制」について書くにせよ、「それが規制されるとは現在の我々読者にはちょっと思いつかないもの」が「どういう舞台設定の下でなら規制されうるか」「その結果その世界ではどういう事態が出来するか」をもっと飛躍させられないものか。やっぱ星新一白い服の男」が、このネタでは遙かに先を行ってるよなぁ。
 あと印象に残ったのは「地獄はここに」。これはなかなかにえげつなくてGood。自覚的な「と」の人が痛い目にあうという意味では勧善懲悪で、なおかつ、サーラに出会わなかったデルがのうのうと生き延びる。「嫌な話」好きとしては大変に良作。

アリスへの決別 (ハヤカワ文庫JA)

アリスへの決別 (ハヤカワ文庫JA)

*1:確か最初に出版の告知があったときにはこれが表題だったな。てことはこの2作が本書の中核なのであろう。