うえお久光『ヴィークルエンド』(電撃文庫)(透明部ネタバレ)

 『紫色のクオリア』同様に、最初に読み始めたときの舞台装置とその印象(ゼンラーマンによる超人パルクール合戦)が、読んでいくうちにどんどんめくるめく広がりを見せてくるのが実に気持ち良い。トリップしそう。サイバーパンクならぬドラッグパンクやね、これは。
 ところでちょいと連想したんだが、経口摂取した成分の作用により、知覚や判断などの思考の速度を大幅に速め、身体を完全に制御することによって肉体の構造の限界いっぱいまでの能力を絞り出す。しかも主人公と旧知で黒幕的立ち位置にいる女の子が「とくこ」……なんという調味魔導。きっとヴィークルのサプリは「さっぱりとしたアスファルト」味で、世界のどこかにはサプリに頼らず感覚刺激によって共感覚を制御する流派があって、レース中にペンライトで空中に図形を書いてライバルに幻覚を見せたり、「なまたさう」と唱えて足止めしたりするに違いない。そもそも共感覚をキーにいろいろ起きるってメカニズム自体が五感魔術っぽいし、普通はサプリでしかできないことを自分の歌でやってのけるって、聴覚魔術だよなぁ。

ヴィークルエンド (電撃文庫)

ヴィークルエンド (電撃文庫)