野尻ボード - 空には大きなお月様 2007年11月25日(日)20時45分30秒

でこんなネタがあった。もちろん直感的には「無理」で即答なんだけど、おもしろそうなんで考察してみよう。

そこで、ふと思ったですが、現在月の軌道上を周回している「かぐや」。肉眼ではもちろん見えないと思うのですが、どのくらいの倍率の望遠鏡を使えば月面を通過する「かぐや」を視認することが出来るものなのでしょうか? 大気圏越しでは無理なのでしょうか?

 まずは基礎データとして、月の平均公転半径が384,400kmかぐやのサイズが上部と下部を合わせて2.1m×2.1m×4.8m。ということは地球から見た視野角はarcsin(4.9÷(384400×103))≒1.3×10-08ラジアン(7.3×10-07度、0.0026秒角)。
 一方、地表から補償光学を使わない通常の望遠鏡で観測する限り、何をどうがんばってもシーイングの限界より細かい対象は見えない。地上でもっともシーイングが良いとされるマウナケアで0.43秒角(中央値)だそうだ。まずここで、地表から補償光学抜きでは、絶対に無理だということになる。
 では補償光学を駆使するか、あるいはいっそ宇宙望遠鏡を使うかして回折限界ぎりぎりまで解像度を高めれば見えるのだろうか。Wikipediaによれば望遠鏡の分解能は2点を見分ける最小の角度で定義される。例えば2重星など2つの点光源の分解能 θは、レーリーの基準によれば θ = 1.22λ / Dである。λは光の波長、Dは対物レンズの直径。となるとのこと。とりあえず可視光の真ん中あたりを取って波長を600nmとすると、1.3×10-08ラジアンを見分けるためには、1.22×600×10-9÷(1.3×10-08)≒57mの直径を持つ望遠鏡があればよいわけだ。
 もちろん現存するいかなる望遠鏡でも不可能な数字ではあるけど、思ったより小さいな。*1 すでに計画としては42mだの100mだのって話が出てるらしいんで、金に糸目をつけなければ、現在の技術力でも地上からかぐやを見るのは不可能じゃなさそうだ。
 一方宇宙望遠鏡だと、ハッブルが口径2.4mで質量が11,000kg。単純に口径の3乗に比例するとすれば、57m宇宙望遠鏡の質量は1.5×108kgとなる。史上最大のロケットであるサターンVの打ち上げ能力が低軌道に120tだそうだから1200機以上が必要な計算となり、さすがにこれを計画する漢は地球上には今のところいないだろうな。月面なり小惑星なりからの資材調達が可能にならないと無理だろう。

おまけ:NHKの鼻をあかしたい

 ところで、望遠鏡の解像度を計算してて思いついたんだが、かぐやからの観測と同等の画像を地球から得ようとすると、どのくらいの口径が必要なんだろうか。とりあえず学術的な観測機器については、スペックを見てもそれが具体的にどういう意味なのか俺が想像できないんでおいといて、ハイビジョンカメラに話を絞ろう。つまり、「NHKがけちくさいんで鼻をあかしてやる」計画である。*2 
 ハイビジョンカメラの画角は「地球の出」を撮った広角側で44度、「地球の入り」の望遠側で15度、軌道の高度は100km。従って視野の範囲は広角側で81km、望遠側で26km。*3 水平解像度が1920ピクセルだから、広角側の解像度は42mで望遠側14m。*4 よって地球から見たピクセルあたり角度は広角側1.1×10-07ラジアン、望遠側3.6×10-08ラジアン*5 なんだ、だいたい↑で計算した、地球から見たかぐやとニアリじゃないか。
 ということで「NHKの鼻をあかす望遠鏡」は、広角側で口径6.7m、望遠側だと21mになる計算で、*6 なかなか簡単にはいきそうにない。やっぱ38万kmは遠いな。これが「距離の暴虐」というやつか。

追記:セルフツッコミ

 よく考えたら、↑の論法、かぐやが地球から見て月と重ならない位置にいるとき、つまり宇宙空間を背景にしてるときには無意味だな。そのときに問題になるのは、地球方向へかぐやが太陽光をどれだけ反射してるか、つまりかぐやが何等星に見えるか、だけで、サイズだの分解能だのはまったく関係ない。でないと点光源と見なせる恒星は一切見えないことになってしまう。
 かぐやの形状と材質(反射能)を元に計算なりシミュレートなりが可能だとは思うんだけど、俺の能力を大きく超える。無理。*7 てことでこのエントリを読んだ方、↑の議論はあくまでも、かぐやが地球と月の間にいるとき、つまり地球から見て月と重なって見えるときにだけ意味のある議論です。

*1:計算してみる前は、ソーラ・システムに転用可能になるんじゃないか、というサイズを想像してました。あてにならんぞ >俺の直感。

*2:もちろん「地球の出」「地球の入り」は無理ですが。

*3:100km×2×tan(画角÷2)

*4:視野範囲÷1920

*5:arcsin(解像度÷(384400×103) )

*6:1.22×600×10-9÷ピクセルあたり角度

*7:別の手法で挑戦してみました。