小川一水『不全世界の創造手(アーキテクト)』(朝日ノベルズ)

 まったく新しいものではなく既存の概念で、科学や工学の専門家でなくてもその凄さが理解できて、でも世界中の誰もがまだ実用化できていなくて、天才の頭脳があれば町工場レベルで「実用化可能」と判断できるプロトタイプが作れる……ガーンズバックの時代ならともかく、2008年のSFで? それともファンタジーだと思ったほうがいいのかな。とかいろいろ違和感を感じたにも関わらず、面白くスッと読める上にエピローグが気持ち良い。
 で考えてみると、↑で引き合いに出したガーンズバックみたいに「こういうテクノロジーがあれば世界はどう変わるか」が主題で、いきなり地の文で天才認定される主人公も、成長性を読める能力とやらも、「ピンチに陥る→少し前のページで縁のできた人が颯爽と助けに」の繰り返しで進むストーリーも、すべてそのための舞台装置なのだな。『ふわふわの泉』ラノベでやったことをジュブナイルっぽくした感じで、「外挿(エクストラボレーション)こそSFの醍醐味なり」という俺の好み(の一つ)のど真ん中である。
 ところで、文明がこの方向へ突っ走った究極が『フリーランチの時代』になるのかな。

不全世界の創造手(アーキテクト) (朝日ノベルズ)

不全世界の創造手(アーキテクト) (朝日ノベルズ)