高田誠二『単位の進化 原始単位から原子単位へ』(講談社学術文庫)

 紹介されてるメートルの制定時の演説の逸話が壮絶に格好いいのでメモ。「緯度45°の地点で周期が1秒になる振り子の長さ」と「赤道〜極の子午線長の1000万分の1」のいずれを採用すべきか、の議論において、

 この前者は後者に比べて仕事が大層楽でまた早くできることは、だれにもわかる通り委員もそう思ったのであったが、中にひとり“世界中の国々すべてに同じ物差しを使わせるようにしようというのは途方もない大仕事である。この大仕事を世界にうなずかせようというのは容易な事ではない。これにはそれ相当の大仕事をしてそれの大切な事とそれをまじめにやるという決心とを示すにふさわしい事をしなければならない”というのがあって、皆これに賛成し、これを行なう目論見を立てて、翌年の三月に政府に報告した。すなわち世界の精神を傾けるためにこの大仕事をする事になったのである

だそうな。そしてその計画にゴーサインと金を出させるためのアピールもこれまた格好良い。

 さてアカデミーは、かりにも独善的とみなされかねまじき事情、すなわちフランス固有の便益や国家的偏見をうかがわせるごとき事情はことごとく排除すべく、大いに意を用いて参りました。この事業の原則あるいは細目が後世に伝えられるということはあり得ましょうが、そもそもいずれの国がそれを建議し実行に移したのかは判別しがたくなるでありましょう。度量衡統一の事業の意義はまことに大であります。すべての人の意にかなう単位系を選択することが肝要なのであります。

 もちろんこれを「精神論乙」と片づけるのは容易いし、フランス革命直前頃の、おそらくはいまよりもずっと人々が理想論に燃えてた時代ならではのエピソードでもあるんだろうけど、「30年後にノーベル賞のメダルを何個」「月に二足歩行ロボットで世界にアピール」とかの、科学技術を国威発揚と切り離して考える事のできない人たちには、このアピールを百万べん読んで欲しいもんです。

単位の進化 原始単位から原子単位へ (講談社学術文庫)

単位の進化 原始単位から原子単位へ (講談社学術文庫)