ブラッドリー C エドワーズ, フィリップレーガン『宇宙旅行はエレベーターで』(ランダムハウス講談社)

 「建設費1兆円」のネタ本。原著の発行から3年、既にあちこちに楽観的すぎると思える記述が目立つような気がしないでもない。*1
 一番気になるのは、地上側基地*2建設地の緯度について、赤道上は理想的な建設候補地である。しかし、実際には南北の緯度35度ぐらいまでが許容範囲内となると述べてる点についての技術的根拠が一切書かれてない点かな。むろん、「本書は入門的啓蒙書であり、ツッコミを入れたい読者はブレーズ・ガッサンド氏の研究にあたれ」というスタンスなのかもしれんが。*3 定性的には、重心が静止軌道上になければならない以上、地上部がずれたぶんは静止軌道より上のケーブルとアンカー質量*4を逆に傾けることでバランスをとらなきゃならんはずだが、そうやって全体が傾いた構造になったエレベーターは、コリオリ力とかを考慮に入れても安定するんだろうか? それとも、「5年後のCNT繊維」はそれをも押さえ込むだけの強力なものになる、ということなのかしら。あるいは、どのイラストでも静止軌道より下のケーブルは傾いてるが上側はまっすぐ延びて赤道面に納まってるように描かれてるところを見ると、静止軌道上のステーション*5やアンカー質量に比してケーブルが圧倒的に軽いので、重心のズレは無視できる範囲に収まるのかな。

宇宙旅行はエレベーターで

宇宙旅行はエレベーターで

*1:素材が実用化されるには、今後3年から5年程度かかるのではないかと考えられている

*2:本書の表現では「アース・ポート」。

*3:なお、ブレーズ・ガッサンド氏の論文なりペーパーへのポインタは本書中には見当たらない。日本語の情報源として唯一挙げられている宇宙エレベーター協会のサイトでも、この点に関する解説は見当たらない。かろうじてフォーラムで議題にはなっているが、レスはないようだ。

*4:本書の表現では「ペントハウス・ステーション」。

*5:本書の表現では「ジオステーション」。