渡航『あやかしがたり』(ガガガ文庫)

 達者な筆致と高い完成度を誇り、作者の年齢を鑑みると同じ物書きとして「ちょっと今のうちにどうにかしておきたいな」と暗い情念を抱かせるものがありましたという評価に違わぬ良作。大変Goodでございました。
 自分が正義だと思い込んだ勢力に荷担して突っ走り、ラストで真相を知って愕然、と言う良くあるパターン*1からはずしておいて、なおかつ優柔不断にも見えないのはたいしたもんだわ。
 が、口調や台詞中の用語にはちょっと違和感。ふくろうやましろといったアウトサイダー/人外がその世界の標準から外れてるのはいい。新之助の内面があまりに現代的なのも読者の共感の持ちやすさを考えれば仕方ない。家族との会話がフランクすぎるのはそういう家風or幼少時の出来事のせい、師匠や出世した旧友もその延長線上、ということにしよう。しかし家老との会話の口調はさすがに……これが同じ封建身分制度世界が舞台でもヨーロッパ中世風とかならまだいいんだが、もろに江戸後期だもんなぁ。浪人ならともかく禄を食んでる藩士と家老の会話じゃねぇよ、あれは。
 ところでラストバトルの描写からは懐かしの、というかDQN女性がすべてをかっさらっていくようになる以前の友野詳作品を思い浮かべてしまったり。サブキャラ対サブキャラの対決が次々に格好良くかつ伏線を残しながら片づいて、最後は主役の、気合いや根性でなく実力で決めるあたりが特に。

あやかしがたり (ガガガ文庫 わ 3-1)

あやかしがたり (ガガガ文庫 わ 3-1)

*1:例:無理・無茶・無策の三無主義なロードスの自由騎士。