長谷敏司『あなたのための物語』(ハヤカワSFシリーズJコレクション)

 すごいものを読んだな。確かにこれは謳い文句どおり「史上、最も無機的で最も感傷的な"死"の情景」なんだろう。それにしても、なんとも感想の書きようがない。もっともこうして絶句状態にあるってのが、pp.267-268的には本作に対する最大の賛辞になるのかしら? ま、俺に物語論について語るだけの素養がないからでもあるが。
 なので設定ネタに逃げる。2050年時点で既に米国の片田舎の農場主夫人が人工臓器の移植を受けられ、物語時点の2083年には脳内にITP制御部を埋め込みナノロボットが疑似神経を生成することが可能なのに、そんな病気が不治って、外科的・工学的な医療と遺伝子関連技術の発展度にえらいギャップがあるな。優生戦争でも起きてゲノム関連技術が全面的に禁止されたりしたのかしら。
 それともひとつ、ITP技術には憧れるなぁ。てめえの感情を制御しきれずにいろいろやらかしてきた人としては、自分のテキストを自分で解析できるなんて、羨ましすぎる技術ではある。あと、テキストをP2P的にネットワークに拡散させ遍在させてしまえば、ある種の不滅幻想に浸れたりするかもしれないなんて思ったりして。

あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)