日昌晶『試験に出る竜(ドラゴン)退治』(スマッシュ文庫)

 新レーベル立ち上げ第一弾にあの怪作『覇壊の宴』の人を持ってくるって、なんというチャレンジャーや、と思って読み始めたんだが、なんとも薄味。物理的にも、本文208ページ中イラストや扉などで文章のない34ページを除くと原稿用紙約300枚、更に一昔前のラノベ的な改行の多さ、ほんとにスカスカ。あとがきがなんというか、いかにも「PHPっぽい」のもふくめ、別の意味で「なんじゃこりゃ」と叫びたくなる怪作ではある。期待してたものとは方向性がまる外れだが。
 はっきり言って、よくある「ファンタジー世界でハーレムラブコメ」のパロディを小手先で書き飛ばしただけ、にしか見えぬ。富士見書房を離れたあと、PHP研究所に辿り着くまでの放浪期間中に自分で自分を魔改造したのかしら?*1 「スクール鎧」という一発ギャグを200ページ引っ張ったあげくにラストに「裏になんか陰謀があるのかも」というモノローグを無理矢理とってつけたような構成の無理矢理さもさることながら、魔法と竜の存在する全くの異世界が舞台なのに、いきなり戦鎚とは十四世紀から十六世紀にかけて繁栄した打撃系武器であるなどと我々の住む地球の歴史を前提にした解説を入れちゃうなんて、こんなに世界観に無頓着な人じゃなかったような気がするんだが。
 イラストは……まぁ上手い下手好き嫌いはさておいて、「鎧の解説がんばったね」と言わざるを得ない。ストーリー展開上まったく無意味な作者の蘊蓄披露のフォロー、ご苦労さん。

試験に出る竜〈ドラゴン〉退治 (スマッシュ文庫)

試験に出る竜〈ドラゴン〉退治 (スマッシュ文庫)

*1:教官も上級生も魔法科生徒も歯が立たないorそもそも立ちはだかろうとしない強敵への勝利の鍵が、よりによって知恵と勇気と友情と伝統だなんて。そんなものは感情と感傷の種であって物量と火力の前には無意味だ、というあの容赦なさは何処へ捨ててきたんだ?