大西科学『さよならペンギン』(ハヤカワ文庫JA)

 「ふぐたいてん……」のペンダンが異様にキュート。そしてこの人の筆致は相変わらず気持ち良い。するすると引き込まれて一気に読めてしまう、ただ単に淡々としてるんじゃなく、実は情感豊かなんだけどそれを押し隠してる、みたいな。
 しかし冷静にストーリーを振り返ろうとすると、うーむ、俺の脳みそのキャパを越えてるな。何が何だか分かったような分からんような。「現時点でのあらゆる科学的知見と矛盾しない不老不死」のアイデアを思いついたんで、その思考実験をそのまま書き下ろしてみました、と言われても信じてしまいそう。
 それともひょっとして、「エヴァレット解釈最高! コペンハーゲン学派糞喰らえ」というお話しなのかも。自分が観測しなかった別の可能性も並行して実在するんだ、ではなく、自分が観測しているこの世界しか存在しない、他の可能性はすべて自分が観測し波束を収束させる事で潰してきたんだ、と認識してたとしたら、主人公の精神は押しつぶされてしまったんじゃなかろうか。

さよならペンギン (ハヤカワ文庫 JA オ 9-1) (ハヤカワ文庫JA)

さよならペンギン (ハヤカワ文庫 JA オ 9-1) (ハヤカワ文庫JA)