上野遊『エアリエル 〜緋翼は風に踊る〜』(電撃文庫)

 『銀槌のアレキサンドラ 2』からまる2年、これはさすがに「並行して複数シリーズ展開」の目はないんだろうな。ま、典型的異能バトルには食傷気味な読者としては、むしろ本作のほうが楽しいのは確かなんだが、しかしそれはそれとして、打ち切られ消えてしまった作品とキャラに黙祷。
 それにしても、俺をリサーチして狙い撃ちしたかのように好みの要素てんこ盛り。WW1〜2ぐらいの技術水準での飛びモノ、欧州っぽい地域の架空の小国、*1 ボーイ・ミーツ・ガールで男の子は非アクション系、でもここぞという時の「一緒に行くから。落とされても大丈夫。僕が絶対に助けるから」みたいな格好良さは格別。そしてヒロインの意地っ張りっぷりは実にこの作者らしくて素敵。
 しかし、それ故に「今度こそ長期シリーズ化」と力んだのかのような、それでいてとりあえず一巻完結に収めざるを得なかったかのようなアンバランスさが残念。「政略結婚狙いの名家のお嬢さん」や「寝室宰相」や「エース嫌い」とかの設定に、延々と語られる説明的な過去話。シリーズ化前提なら今巻ではにおわす程度にしておいて次巻以降でゆっくり語ればいいし、単巻完結ならばっさりカットして主役とその周囲のレヴァンテたちに話を絞ったほうがすっきりしそうなんだが。*2 それと、現実の地球によく似た架空世界、良い雰囲気なんだけど架空の地名が連なる中に混じる「ヨーロッパ」「地中海」がどうにも違和感大。総じて次巻以降(の展開|が出版されること)に期待、かな。

エアリエル―緋翼は風に踊る (電撃文庫)

エアリエル―緋翼は風に踊る (電撃文庫)

*1:田中芳樹御大の言うところの「ルリタニア・テーマ」。モデルは地誌的にはスペイン、文化的にはイタリア、かな?

*2:ちょうど、「GMが吟遊タイプのTRPG」みたいなバランス。