大森望, 日下三蔵[編]『年刊日本SF傑作選 量子回廊』(創元SF文庫)

 書き下ろしの『NOVA』に再録傑作選の本シリーズ、いやいや、国内SFアンソロジーがコンスタントに2シリーズも出続けるとは、良い時代になったものじゃのう。ま、↑と同様にこっちも、微妙にチョイスが「言語SF」「リアル・フィクション」「ゼロ年代」的な、俺の好みじゃない方向なんだが、これはそもそも俺の好みの方が時代遅れ、という気もするし。
 新人賞作品については……うーん、面白いんだが、オチの素っ頓狂さに比べて長すぎ・ディティール細かすぎな気がしないではない。同じアイディアでショートショート、とは言わんまでももう少し短いぴりっとした短編に仕立てたら、もっと好みなんだが。

市川春子「日下兄弟」

 ああ、これはええ話にして綺麗な絵やなぁ。往年の高野文子をちょっと連想したり。いやぁ、こんな素敵なものが出版されててしかも高評価を得てるとはちぃとも知らなんだ。こういう思いもよらない出会いがあるからアンソロジーは楽しい。

三崎亜記「確認済飛行物体」

 上手い。まさに「その発想はなかった」という意味でセンス・オブ・ワンダー*1 確かにこれは、小道具が携帯電話でさえなければ、「未発表の星新一作品が発掘された」と言われても信じるな。

八木ナガハル「無限登山」

 数学SFということで、なかなかにラッカー風味でGood。しかし20数ページを年に1〜2作か。なんとか、単行本になるまで頑張って欲しいものである。

円城塔「バナナ剝きには最適の日々」

 エア友だちを失うことに慣れて、ついには「エア友だちを失った記憶」を捏造することで退屈しのぎをする、宇宙人判定機の人。要約するとどうしたってこうなるんだが、なんとも不思議でもの悲しい。いつか(彼|彼女)がバナナ星人に会って判定機能を必要とされますように。

量子回廊 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

量子回廊 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)