タダは国を滅ぼす - ビジネススタイル - nikkei BPnet

夕張市の“くれくれ体質”が如実に表れた出来事が去る4月の夕張市長選だった。羽柴秀吉候補が、当選までわずか350票と肉薄した。羽柴氏青森県の奇妙な“城”に住んでいて、これまでも東京都知事選をはじめとするさまざまな選挙に出馬している。ご存じの方も多いだろう。ほとんどの選挙で、彼は泡沫候補だった。だがそんな彼が、今年春の夕張市長選では“健闘”した。それは「自分の財産から100億円を夕張市に持ってくる」と宣言したからだ。
(中略)
僕が最も恐れているのがメディアの反応だ。高速道路無料化には賛成するのに、増税には反対する。これはある種の詐欺だと思う。
消費税見直しの議論が出たときに、あるニュース番組のコメンテーターが「また増税ですか、無駄遣いはやめてもらいたい」と発言していた。増税=悪のステロタイプである。納税者(タックスペイヤー)ならば、どの程度の税とどの程度の行政サービスが見合うのか、を議論するべきなのに。いつまでも「とにかく何でも反対」と言っているだけではしかたがない。
(中略)
7割を健康保険で賄うことは理解できる。社会福祉体制がしっかりしているということだ。残りの3割は自分で払い、「お金がかかったな」ということを実感するべきだろう。
しかし、タダにすると、こうした実感がなくなる。ちょっと風邪をひいただけでも医者に行くようになるだろう。熱が40度超えたときに慌てて病院に駆け込むのは仕方ないことだが、37度5分の微熱でも病院に行くようになる。1年に3回くらい病院に行けばいい人も、タダになれば10回病院に行く。
こうした事態は、健康保険制度の崩壊を招く。保険とは助け合いだ。みんなが払う健康保険料をプールしておき、誰かが病院に行ったときに、その費用の7割を、プールを取り崩して病院に支払う。不要な診療が増えれば、その分、みんなで払ってつくった国民健康保険のプールの取り崩しも加速する。
タダは、いろいろなものを壊していく。タダは、人を腐敗させる。

 かくして、リアル世界もまた、クレクレ厨に満ちあふれる我らが「美しい国」なのであった。合掌。