川口士『漂う書庫のヴェルテ・テラ』(富士見ファンタジア文庫)

 ビブリオマニア・ファンタジーマッピング・ファンタジーよりは少しは一般的だけど、どっちにせよ妙なネタを持ってくるもんだ。もちろん「魔道書を追い求める魔法使い」ならどこにでもなんぼでもいるだろうけど、物語が好きってのはなかなかに変で良い。背景の世界情勢も、焚書好きな宗教教団vs出版業で儲けてる国家、という妙な代物だし。
 主人公が五賢七書とやらを追い求める理由が微妙に物騒っぽいのだけど、ダーク方向に進むならそれも良し。そういうのも上手く書きそうな作者に思える。『星図詠みのリーナ』のほうは黒展開は似合わないだろうし、同時展開で中身が似てしまっては面白くないんで、こっちはダーク路線でも良いかも。聖堂に残ってる旧友とのあれこれとか、いろいろ種も蒔かれてるし。
 ただし、モノクロイラストはひどい。上手い下手はまぁ評価できるほど見る目もないし好みの問題も有ろうけど、それ以前の技術的レベルで難あり。手書き漫画的に言えば、ディテール部にペン入れするのを忘れてトーンを貼ってしまい、服が板にしか見えなくなったってな感じ。それと細い線がぶつ切れになってるのはジャギーかなんかか? イラストレーターのせいか印刷所のせいかは知らんが、もうちょっとどうにかならんかったもんやろか。

漂う書庫のヴェルテ・テラ (富士見ファンタジア文庫)

漂う書庫のヴェルテ・テラ (富士見ファンタジア文庫)