流れるのが惜しいので保存シリーズ

 手ずからお湯を沸かすプロマネ……なるほど、プロジェクト(に関わる人たちを)マネージする人、なのだなぁ。

285 :名無しSUN:2010/07/22(木) 00:55:45 ID:HrCb0WTe
 シリーズ「宇宙開発最前線!はやぶさ物語」
 第2回「はやぶさ秘話」
 
 アナ:プロジェクトの中で一番辛かったことといえばどんなことでしょうか?
 
 川口:「あの〜、そうですね。プロジェクトは検討グループでやっているので、どちらかという
 
 とデイスカッションとかある意味では担当者と色々こう技術的な討論して、あるいはスケジュー
 
 ルもそうかもしれませんし、予算もそうかもしれません。こういうことではどうかということで
 
 先方のやる気を一生懸命出してもらってそういう形で進めてきたと思うんですよね。ですからと
 
 てもだからみんなとのモチベーションをよく引き出せたかなという気はするんですけど。
 
 ただ、プロジェクトが進むに従って通信が途絶するとかですね、かなり致命的な事態っていうの
 
 が出てくるんですよね。
 そういう時に結局これは止むを得ないんですけど、その携わっている人がどうしても足が遠のい
 
 てしまうということが起きますよね。
 
286 :名無しSUN:2010/07/22(木) 01:02:05 ID:HrCb0WTe
 アナ:例えば通信が途絶えてしまったりとか、イオンエンジンが寿命を迎えたのは2009年ですよね。
 携わっていた方が運用がその間停止すると寄りつかなくなるということですか?
 
 川口:そうですね、イオンエンジンの方は、エンジンはなかなか動きにくくても通信は順調だし交信は出来てるし、
 ですから対策の打ち合わせも色々転がるわけなんですよね。アクティビティは充分あります。
 この問題を克服するには色んなタスクを検討してもらうとか動きますよね。
 ところが、通信途絶の方はそうはいかないんですよね。
 通信途絶の方というのはとりあえず何していいかわからないような状態ですよね。
 音信不通ですから、だからウンともスンともいわない状態で。
 そっちの方が本当にですから検討してもらうにもですね、メンバーがやって来てもすることがないですからね。そちらの方が自然に足が遠のいちゃいますよね。
 これはですからプロジェクト全体の中で一番辛かったことですね。
 
 アナ:2005年から2006年にかけて1ヵ月半ということですよね。
 どうやってモチベーションを維持されたんですか?
 
 川口:結局遠のいてしまうのは遠のいてしまうんですけどね。ただ色々タスクというか検討事項というのを思いついたら色んな人にお願いして。
 お願いするとその人はそれをやるということは発生しますよね。
 それから小さなことですけど、運用室はまだ開店してますよっていう、閉じてませんよという為にはもちろん行くことが大事ですよね。部屋に行くことが大事だし。わざわざポットのお湯を入れ替えに行くとかね。そうするとここは常に人がいるという雰囲気がわかりますよね。
 行ってみてお湯を出してみるとお湯が水だったりするとこれは何日も来てない証拠じゃないですか。
 だからそういうことで、まだ閉店してないよというのは大事ですよね。そういうメッセージを発信することは。
 
 アナ:それを川口さんがリーダー自らがなさったんですか?
 
 川口:ああ、僕やってましたね。お湯替えてましたね。
 通信復旧したらお湯替えなくなりましたけどね(笑)。
 
 アナ:復旧して良かったですね。
 
 川口:笑い。
 
287 :名無しSUN:2010/07/22(木) 01:03:52 ID:HrCb0WTe
 アナ:でも、その数々のトラブルがあってどうしたらいいのか次の手はないというような所まで追い込まれてしまった時って奇跡を信じたいという気持ちになるんでしょうか?
 
 川口:ええ、そうですね。通信が途絶えた時ですよね。あの検討することは色々、色々ってまあ限られてますよね。あるわけですよね。
 だからそういうことはもちろん技術的な準備はもちろんするんですけど。
 技術的な準備というのはこういう範囲のわからなさだったらこういう方策、方針がありますということができるんですね。もちろんそういうことを検討して運用するんですけど、まあ論理的な話ですよね。
 ただこの範囲でなかったとしたらといったらもう全く手がなくなっちゃいますよね。
 ですからこの範囲でいいっていう判断は多分期待でしかないですよね。こうであって欲しいっていう。出来るだけ広くしたいんだけど、ずっと広くしてるときりがなくなってしまいますから、
 だからそうであって欲しいというよりは、そこから先は何とかそうであって欲しいという期待なので。
 
 
 アナ:そしてはやぶさがいよいよ帰ってきたわけなんですけど。
 その直前の「はやぶさ、地球へ!〜帰還カウントダウン〜」というページが出来まして。その中の4/15付けで川口先生が寄せたメッセージがあるんですけど、タイトルが〜「はやぶさ」、そうまでして君は。〜ということでちょっと文章を紹介させていただきますとね。
 
 「われわれプロジェクトは、彼をあきらめさせることなく、動くものはなんであれ動員してあらためて走りださせることに成功した。いや走らせてしまった。運用再開を喜ぶなかで、私は、若干複雑な気持ちも併せてもっていた。
 「はやぶさ」にはぜひがんばってほしい、と思う反面、その先に待つ運命は避けられないものかと思う。」
 と書いてらして、とても複雑なお気持ちになってらしたんですね。
 
 
288 :名無しSUN:2010/07/22(木) 01:05:23 ID:HrCb0WTe
 川口:そうですね。これはあの、その時2009年の11月に始まったことではないんですよね。
 小惑星を離れて航行を再開した時にはですね、化学ロケットの燃料はもう使えない状態だったんですよね。
 ですから本来であればというか、元々の打ち上げ前のシナリオはですね、母船は大気圏の中に突っ込んでバラバラになることはないんですよ。その前に母船はカプセルを分離したら自分は大気圏に入らないで上空を飛び去るっていう、そういうストーリーだったんですよね。
 
 ただ、本当は燃料が漏れてなくなってそれで、何とか運用を続けて来ていたんです。
 その時もう運命はそういう風にある意味決まっているんですね。
 カプセルをきちんと投入しようと思えばするほど、母船はだから完全に大気圏に突っ込まなければいけないということですよね。
 だからイオンエンジンが停止して残り約半年ですけど、なお運転しなくてはいけないと。
 運転することにもちろん全力を挙げたわけですね。
 最後はカプセルをかえさなきゃいけない。その努力というのは結局報われたというか、運転再開はできたんですけども。運転再開させて「さあ行け」というふうに言えば言うほどそれは母船はその先の運命がないよと言ってることですよね。
 
 はやぶさ自身はもう打ち上がってから、打ち上がった時には何にもいうことを聞かなければいかないというルールはないんですけど。
 もう色んな対応するために、色々教えこむんですね。
 こういう時にはこうしろ、こういう時にはこうしろと、こうやってこうなったらこうしろとか。二重三重のそのまあ言ってみれば躾けをするわけですよね。
 だからそうやって育て上げた子供のようなものなので。
 そうやって子供のようにして躾ければ躾けるほどさっきのイオンエンジンの運転もそうですけど、ですからちゃんと動けよと言ってちゃんと動いたわけですから。
 動いたっていうことは、だからほんとは逆をいえばその先は大気圏に突っ込まなきゃいけないよとそう言っちゃうことになるんですよね。
 だから、いい子であればいい子であるほど複雑ですよね。
 
289 :名無しSUN:2010/07/22(木) 01:08:41 ID:HrCb0WTe
 アナ:最後カプセルを投下した後でしょうか。地球の写真を撮って送ってきたんですよね。
 
 川口:そうですね。あれはもうプロジェクトでカプセルの分離の運用というのがその日の一番の大事なことですよね。カプセルをですからきちんと決められた方向に向けて、そして分離をすると、決められた時刻にですね。
 そういう運用をしているんですけど、その運用の打ち合わせの前からというか、ずっと前から最後は地球の写真を撮りたいと。それははやぶさに見せてあげたいということなんですけど。
 
 アナ:そういうことなんですか。
 
 川口:ええ。これ本当はですね。この運用はしなくていいんですよね。
 
 アナ:カプセルを投下すればもうそれでって。
 
 川口:そうですね。それこそ3時間前でそこで運用は終わっていいんですけど、だけど運用に携わっているメンバーはこの打ち合わせをしている時も誰からも異論は出なかったですよね。
 
 アナ:はやぶさに地球を見せてあげたかった。
 
 川口:そうですね。
 
 アナ:そのはやぶさが見た地球の映像をご覧になってどうでした?
 
 川口:ほんとにあの写真はほんとに涙目で見たような写真ですよね。
 
 アナ:そうですね。涙があふれてるようなそういう写真ですよね。
 
 川口:で、下の方が送りきれない部分があってデータがだからそこまで通信がとれなかったんですけど。
 あの〜まあ、ほんとに最後の最後にそういう意味ではふさわしいかもしれませんね。
 
 
290 :名無しSUN:2010/07/22(木) 01:13:10 ID:HrCb0WTe
 アナ:そういう意味では科学者とか研究者のお一人の川口さんの研究のありよう、感情をいっぱい込めて吐露されたっていうところがですね、私たちにとっては驚きでありでもやっぱり感動なんですよね。
 
 川口:うん、まあ、そういうことをすべきじゃないと言う方もおられるからあんまりあれなんですよね。だからもっとドライに考えるべきだという方もおられるんですけど。運用自体は決して感情に流されるというような運用はしてきたつもりはないですね。
 すべて論理的にやってきたつもりです。ですから画像を写すというのは、カプセルを分離する前には絶対に行わなかった、行えなかったですね。
 それまであらゆるすぐに必要でない電力はすべて節約するということで、カメラの電源も全部切ってましたしね。もうヒーターも切ってましたから。スイッチを入れて動くかどうかもわからないですよね。
 少しでもカプセルの分離にひょっとしたらダメージがあるかもしれない、探査機を不調に終わらせてしまうかもしれないようなアクションはすべてやらないようにして。だからカメラの電源も入れなかったんですよね。
 だからこれはドライな運用だと思うんですけど。残りのですから3時間、交信が出来るのは2時間位ですよね。その2時間位というのはこれはスタッフも多分共通の考え方だと思いますけど、カメラでぜひ見せてやりたいと。
 
 アナ:リーダーとしてどんな15年間でしたか?
 
 川口:充実していた15年ですよね。充実していたというのは忙しかったということもあるんですけどね。トラブルも多かったかもしれませんが、休む間もなかったというのが正直なところで。
 休む間がなかったというのはそれだけ取り組むべき課題も色々あったし、やり遂げた充実感があったかもしれません。皆さんプロジェクトのメンバーがやはりどんどん育っていきますよね。成長していって。
 私はだからプロジェクトが始まった時は41かもしれませんが、プロジェクトを計画した時は30代の後半でしたからね。そういう形でみんなこの運用で育っていって、こういう風にして運用するんだというのもわかりますしね。
 それから多分こういうレベルのことをすると、世界レベルというのはどういうレベルかというのかわかったと思いますよね。そういう意味で人材育成になったかなというところもあり、良かったなと思いますね。