C★NOVELS大賞は相変わらず高品質だ

黒川裕子『金翅のファティオータ―四界物語〈1〉』(C★NOVELS Fantasia)

 新人賞受賞作でいきなりシリーズ展開だそうで。うん、確かに上手いし続きを読みたくなる。てか、この尻切れトンボ状態で作品として賞に応募する心臓はなかなかなもんだ >作者。次々に舞台が移動し、そのそれぞれで魅力的なキャラが出てきては主人公たちに置き去りにされる。彼ら彼女らをきちんと拾って全体のお話しの中に配置し直してくれる次巻を早く読ませてくださいね。

片倉一『風の島の竜使い』(C★NOVELS Fantasia)

 「翻訳小説は苦手」という人が「人名になじめないから」という理由が良く分かった。また、完全な異世界を舞台にしたハイ・ファンタジーであっても、人名については地球上のどこかの、比較的想定読者層になじみがありそうな文化圏をモデルにすることが多い理由も。キャラの名前と特性の紐付けが直感でできないってのがこれほどキツいとは。
 が、確かにこれは、普通によくあるパターンの風俗習慣を使ったんじゃ、雰囲気が出せないわな。上手いわ、見事。そしてこれに賞を出すってのがいかにもこのレーベルらしい。ある異世界のある数日間を切り取っただけ、竜使いたちの生活と「街の人」との交流を丹念に丁寧に描くだけ。もちろん事件はあるけど、悪人も戦いもなし。うん、これは大変によいものでした。